3-5<九段の丘> 

                            ささいな一言 
3000年ほど昔の話。旧約聖書サムエル記にアブネルという武将が出てくる。イスラエル王国初代の王サウルの戦死後、その子イシュ・ボシェトとダビデが王位争奪戦をやっていた。もともとアブネルはサウルに仕えた軍の司令官である。けれども、彼はイシュ・ボシェトからある時、女性のことで叱責をくう。そのことで頭にきた彼は、ダビデ側に寝返ってしまう。
ある大きな老人ホームの話を聞いた。施設の最上階にマンション風の立派な職員住宅をつくったのだそうだ。ところがその無料の住宅にだれも入りたがらず、いまだにその大部分は空き家であるという。人のはそれぞれ私生活というものがある。だれからも干渉されたくない部分が人には必要なのだろう。
他者を尊重するということは、その人のわからない面を認めるということかもしれない。相手のすべてを知りたい、という欲望は所有欲、支配欲であって愛ではない。愛とは、友人、夫婦、親子関係においておたがい相手のわからない面を認めることによって成り立つ関係である。
イシュ・ボシェトが王になれず、ダビデが王になれた分かれ目が、自分の部下に対するささいな一言であったことは興味深い。

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